熊本地震 心のケアは<下>専門家に聞く 自治体職員、奉仕者も疲労 罪悪感持たず休んで – 西日本新聞
熊本市男性職員「申し訳なさや無力感」
熊本地震発生からきょうで1カ月。避難所などで被災者の支援に関わってきた自治体職員やボランティアにも、疲労やストレスがたまってきているようだ。専門家はこうした「支援者」を支援する必要性を指摘し、「できないことがあるのは当然であり、全てを一人で抱え込まないで」と助言している。熊本市の男性職員(53)は発生直後から、主に避難所で被災者対応を担当してきた。「水はいつ出る」「仮設住宅はどうなっているか」。次々に寄せられる質問や要望に懸命に応じてきたが、自分の力ではどうにもならないことも多い。先が見通せない中、申し訳なさや無力感にさいなまれることもある。
こうした感情は、他の震災でも共通してみられる。2011年の東日本大震災で、岩手県釜石市の男性職員(55)は発生直後からほぼ休みなく、避難所で住民対応に当たった。家族や自宅は無事だったため「自分より大変な人が大勢いる」と思うと、疲れを感じなかった。発生から1カ月後、自宅に戻ると、体は重いのに気持ちは高ぶってなかなか寝付けない。初めて「疲れている」と実感したという。
桂雅宏医師「できること、できないことを区別し、業務範囲を明確に」
こうした心の状態について、東北大学病院(仙台市)の精神科医、桂雅宏さん(38)は「発生直後の1カ月は非常事態という認識の下、職員はフル稼働で仕事をこなしてきたはず。本人も被災している場合が多く、強いストレスにさらされている人もいるだろう」と指摘する。
桂さんは東日本大震災後、宮城県内の自治体職員の心のケアに当たった。当時、住民にもいら立ちが募り、怒りや不安を向けられ「自分は役に立っていない」と思い詰める職員もいた。ボランティアも「もっと頑張れたのでは」と自分を責めたり、作業を終え被災地を離れることに後ろめたさを感じたりすることがあったという。「できること、できないことを区別し、業務の範囲を明確にすると少し気が楽になる」と助言する。
前田正治教授「「とにかく定期的に休むこと。休むことも仕事のうち。」
強いストレスを抱えた状態で頑張り続けると、うつ病などにかかるリスクも高まる。
災害精神医学に詳しい福島県立医科大(福島市)の主任教授、前田正治さん(56)は東日本大震災後、福島県沿岸部の二つの自治体で職員と面接。うつ病と診断された人が15~20%に及んだという。
前田さんは「とにかく定期的に休むこと。復興は長期戦で、支援者が心身の健康を損なうと立ち行かない。休むことも仕事のうちという認識を持って」と訴える。罪悪感を持たずに休めるよう、組織のトップが強制的にシフトに休みを組み込むことも有効だ。
早めに疲れを自覚するにはどうすればいいか。
九州から東日本大震災の支援に出向いた人のメンタルケアに当たった別府大(大分県別府市)の臨床心理相談室長、矢島潤平さん(43)は「体や心の反応を見逃さないことが大事」と話す。具体的には食欲不振、眠りが浅い、酒量が増える、イライラする、気分の落ち込み-など。やけに口数が増えるなど、普段とは異なる言動も要注意だ。
手軽なリラックス法
休日は趣味などに没頭するのがよい。ただ、休んでいても避難所などの様子が気になり、気が休まらない人もいるだろう。矢島さんは「それも当たり前のこと。そんな自分を駄目だと思わずに受け入れ、体をしっかり休めればいい」と話す。体験を語り合い共有すると気が楽になる。話すことが苦手な人は、聞くだけでもいいそうだ。
精神の緊張状態が続き、うまく体の力が抜けなくなっている人向けに、矢島さんは手軽なリラックス法=図=を教えてくれた。不安感やイライラが和らぐ効果が期待できるという。
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=2016/05/14付 西日本新聞朝刊=
