熊本震災後の自治体職員の過労死が心配される3つの理由

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誠に痛ましいことです。ご冥福をお祈りいたします。

いわゆる「過労死ライン」は、時間外労働が月80時間又は直近1か月で月100時間です。被災地の行政職員の皆様は不眠不休で働いているともお聞きしますから、過労死や過労自殺の多発が非常に心配されます。

震災後の自治体労働者に特有の過労死・過労自殺のリスクがある理由は3つ挙げられます。

  1. 膨大で処理困難な新規業務の集中
  2. 解決困難な住民不満を受け止める心理的ストレス
  3. 「責任感」から歯止めが効かない

(1)膨大で処理困難な新規業務の集中

震災後には、膨大な新規業務が生まれ、「担当部署」に集中します。「担当部署」と言っても形式的なもので、平常時の経験が通用しない未経験の新規業務も多く、処理は困難です。こうして膨大で処理困難な新規業務が担当部署に集中してパンクします。

担当部署以外にも人手不足のしわ寄せは及び、応援に駆り出され、パンク状態は広がります。

(2)解決困難な住民不満を受け止める心理的ストレス

行政サービスが住民要求に満足に応えられるなら、行政職員も仕事のやりがいを実感しやすく、心理的ストレスもかかりにくいでしょう。

しかし、多大な痛手を受けた被災住民の要求を完全に満たすことは困難です。行政職員は、労働現場で被災住民の不満にどうしてもさらされます。しかも、その不満は解消困難なものです。このように解消困難な不満にさらされる仕事では、労働者に多大な心理的ストレスがかかります。多大な心理的ストレスは、脳・心臓の疾患やうつ病など心の病気のリスクを高め、過労死や過労自殺の原因となります。

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(3)「責任感」から歯止めが効かない

熊本では「非常事態だ」「復興のためだ」「がんばろう」という掛け声が非常に大きくなっています。

こうした地域社会の雰囲気の中で、役所や公務員個人が責任感や(あるいは住民などからのプレッシャー)を感じてしまい、過重労働にブレーキが効かない場合があります。

こうした理由から、熊本の自治体労働者は特有の過労死・過労自殺のリスクに晒されています。既に、うつなど心身の病気は広がっているはずですし、放置すれば、今後過労死・過労自殺が多発することが深刻に憂慮されます。

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自治体労働者を過労による病気や過労死・過労自殺から守ることも自治体のトップの責務です。これは自治体労働者に対する責務であるのはもちろん、自治体労働者が病気になれば被災者サービスも行き届かなくなるわけですから、被災者住民に対する責務でもあります。

「非常事態だ」「復興のためだ」「がんばろう」という掛け声が大きい下で、個々の職員が「休みたい」と言い出すことは非常に困難なはずです。だから、自治体のトップの責任が大きいのです。

また、東北大震災による過労死・過労自殺の問題にも取り組まれてきた仙台弁護士会の土井浩之弁護士にお聞きしましたが、自治体職員の過労を防ぐためには、自治体のトップと中間管理職とそれぞれが音頭を取って職員に休むよう指示することが重要とのことでした。中間管理職が休まないと、その下が休むに休めないのだそうです。過去の震災でのこうした教訓を学び実行することも必要でしょう。